2008年11月29日土曜日

絹フィブロインフィルムの分解性 その2

 水中に浸漬したエポキシ加工絹フィブロインフィルムと未加工絹フィブロインフィルムの引張強度と伸び率の経時変化を図に示しました。
 未加工絹フィブロインフィルムの引張強度は20日目以降低下が明確になり、60日目にはフィルムの形状が保てず引張強度および伸び率が測定不能となりました。
 エポキシ加工絹フィブロインフィルムの伸び率は浸漬日数の増加とともに低下する傾向を示しました。引張強度は60日目においても明確な低下が認められませんでしたが、120日目になると半分程度まで低下しました。 
 エポキシ加工により絹フィブロインフィルムは分解しにくくなることがわかりました。

2008年11月24日月曜日

絹フィブロインフィルムの分解性 その1

 エポキシ化合物により化学改質した絹フィブロインフィルム(エポキシ加工絹フィブロインフィルム)と未改質の絹フィブロインフィルム(未加工絹フィブロインフィルム)の水中における分解性の違いを比較しました。
 井戸水3000ml中に20×100mmの大きさのフィルムを複数枚浸漬しました。
次の写真は浸漬17日目と126日目の状態です。右が改質フィルムが、左が未加工フィルムです。







絹フィブロインフィルムとエポキシ加工 その3

 エポキシ化合物を反応させた絹フィブロイン水溶液から調製したフィルムの引張強さ(N/cm2)と伸び率(%)を図1(乾燥状態)と図2(湿潤状態)に示しました。エポキシ化合物SR-2EGの添加量(ml)は反応液50ml当たりの量です。
 乾燥状態のフィルムは、添加量0.3mlまでは引張強さ、伸び率ともに低下し、添加量0.5mlでは伸び率は更に低下しましたが引張強さは幾分向上しました。
 湿潤状態のフィルムでは、添加量0.5mlまでは添加量の増加とともに引張強さが増加しました。しかし、添加量0.7ml以降では添加量増加とともに引張強さは低下しました。
 湿潤状態フィルムの引張強さの向上はエポキシ化合物による絹フィブロイン分子鎖間の架橋形成の効果と推定されます。
 エポキシ化合物添加量0.7ml以降における引張強さの低下は、エポキシ化合物と反応できる絹フィブロイン分子の官能基が限定されるため、過剰のエポキシ化合物を添加してもそれ以上の架橋は形成されず、架橋を形成しないでフィルム中に残留したエポキシ化合物の存在が引張強さにマイナスにはたらくためと推定されます。


2008年11月18日火曜日

絹フィブロインフィルムとエポキシ加工 その2

 エポキシ化合物であるDiethylene glycol diglycidyl ether(阪本薬品工業 SR-2EG)0.1~1.5ml、エポキシ化合物と同量の蒸留水、6%絹フィブロイン水溶液50ml、10%チオシアン酸ナトリウム0.1mlの順に加え混合しました。この混合液を80℃で30分間加熱し、絹フィブロインにエポキシ化合物を反応させました。
 この反応液を室温まで冷却後、50%グリセリン1mlを加え、この液をアクリル板上にキャストし、風乾して絹フィブロインフィルムを調製しました。
 未加工の絹フィブロインフィルムは6%絹フィブロイン水溶液50mlに50%グリセリン1mlを加え、上記と同様に操作して調整しました。


阪本薬品工業株式会社 特殊エポキシ樹脂

2008年11月16日日曜日

絹フィブロインフィルムとエポキシ加工 その1

 絹フィブロインにエポキシ化合物を反応させ、絹フィブロイン分子鎖間に架橋を形成します。
 このエポキシ加工により絹フィブロインフィルムの改質を行いました。

2008年11月15日土曜日

絹フィブロインフィルムとグラフト加工 その2

 6%絹フィブロイン水溶液100ml中にグラフトモノマーとしてアクリル酸2-ヒドロキシエチル1mlを加え、更に反応開始剤として2%過硫酸カリウム水溶液1mlを加え、80℃で30分間反応させ、グラフト加工された絹フィブロイン水溶液を得ました。     
 冷却後、この絹フィブロイン水溶液を水平に保たれたアクリル板上にキャストして風乾し、フィルムを調製しました。
 このフィルムは既に水に対して不溶性のため、50%エチルアルコールによる不溶化処理は行いませんでした。

 グラフト加工された絹フィブロイン水溶液より調製したフィルムの切断時の引張強度は次のとおりでした。
 乾燥時:77MPa
 湿潤時: 5MPa

 絹フィブロインフィルムには吸水性があります。フィルムは水を吸収すると膨潤し、強度は乾燥時の1/10以下に低下します。
 絹フィブロインフィルムの湿潤状態での強度改善を意図してグラフト加工を行いましたが、期待した効果は得られませんでした。

MPa(メガパスカル)
Pa(パスカル)=N/㎡

2008年11月9日日曜日

絹フィブロインフィルムとグラフト加工 その1

 絹繊維の改質加工のひとつにグラフト加工があります。グラフトとは「接ぎ木」を意味し、幹となる高分子にグラフトモノマーを接ぎ木状に重合する反応です。
 絹繊維の場合には、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(AHEE)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリルアミド(MAA)などがグラフトモノマーとして使われます。

2008年11月4日火曜日

絹フィブロイン加工布の耐洗濯性 試験結果

 弱アルカリ性洗剤と中性洗剤で洗濯したときの、各繊維布の洗濯回数ごとの絹フィブロイン付着量の変化を図1と図2に示しました。

 弱アルカリ性洗剤で洗濯した場合(表1)、綿、ビニロン、アクリルでの絹フィブロイン付着量の減少(絹フィブロインの脱落)は僅かで、レーヨン、アセテート、ナイロンでは50%以上の絹フィブロインの脱落が認められました。
 中性洗剤で洗濯した場合(表2)では、いずれの繊維も絹フィブロインの脱落は弱アルカリ性洗剤で洗濯した場合よりも減少しました。
 以上より、付着させた絹フィブロインは中性洗剤による洗濯には充分耐えることがわかりました。また、綿、ビニロン、アクリルに関しては弱アルカリ性洗剤による洗濯にも耐えうることがわかりました。

 ここでは検討しませんでしたが、絹フィブロイン加工の耐洗濯性に関しては、繊維の種類のほかに加工対象布の性状も重要な要素の可能性があると思われます。
 高い耐洗濯性を示した綿、ビニロン、アクリルはいずれも紡績糸の織物であり、耐洗濯性の低かったアセテート、レーヨン、ナイロンはフィラメント糸の織物でした。
 同一繊維で性状の異なる布での耐洗濯性試験が必要と思われます。





2008年11月3日月曜日

絹フィブロイン加工布の耐洗濯性 試験方法

(1) 加工対象布
 JIS L 0803で規定された染色堅ろう度試験用の添付白布。
 綿、ウール、レーヨン、アセテート、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステルの8種類。布の大きさは30cm×30cm

(2) 加工方法
 %絹フィブロイン水溶液中に加工対象布を浸漬、マングルで絞って脱液後、乾燥。
 次に、絹フィブロインを付着させた布を50%エチルアルコール溶液中に浸漬、脱液、乾燥して付着させた絹フィブロインを不溶化。

(3) 洗濯試験
 洗濯機:全自動洗濯機
 容量:49.5L
 洗濯工程:洗濯(6分)→すすぎ2回→脱水→自然乾燥
 洗濯温度:室温
 負荷布:1.5kg
 洗剤:弱アルカリ性洗剤(花王 アタック)0.8g/L
    中性洗剤(P&G モノゲン・ユニー)1.5g/L

(4) 絹フィブロイン付着量測定
 加工布の絹フィブロイン付着量は絹フィブロインあるいは加工対象繊維のいずれかを溶解し、その重量変化より求めました。溶解方法はJIS L 1030を参考にしました。
 綿、レーヨン、ビニロン、ナイロンの場合には、5%水酸化ナトリウム法により絹フィブロインを溶解し、付着量を求めました。綿とレーヨンの場合には未加工でも水酸化ナトリウム溶液の作用で重量に減少があるので、この値はブランク値として測定値より差し引きました。
 ウールの場合には、35%塩酸法により絹フィブロインを溶解し付着量を求めました。
 アセテートの場合には、100%アセトン法でアセテートを溶解し付着量を求めました。
 アクリルとポリエステルの場合には、次亜塩素酸ナトリウム溶液法により絹フィブロインを溶解し付着量を求めました。