工 程
繭・絹の精練
灰汁練法による真綿原料繭の煮繭および生糸の精練は、1926年頃まで実施され、その後は、ソーダ灰・石鹸などが使用されてきました。しかし、1950年頃より再び灰汁練りによる精練が見直されて復活してきました。わら灰上澄液またはわら灰濾過液を用いて精練すると、わら灰に含まれているカリや他の金属塩類が吸収されて、絹繊維にかさ高性、優美な光沢などが加わり、腰のある織物となり、絹鳴りを発生させる効果があるので、紬の味をよくする重要な工程です。
真綿づくり
真綿には、精練された繭を指先で拡げてつくる袋真綿と木枠にかけてつくる角真綿などがあります。真綿の質の良否は原料繭の選繭と配合に関係し、生繭から直接精練して真綿にするものは、乾繭からのそれよりも、より優れています。特に春蚕繭からのものは真綿に引きがあり、ネップや玉節、毛羽の出現を防ぎ、光沢や弾力、かさ高性のある最高の紬用真綿となります。
手つむぎ
真綿を引き延ばしながら、指先で撚りをかけるようにして糸状する、いわゆる手引きつむぎの方法は、糸を回転させていないので、加撚状態になっていない無撚りのつむぎ方です。この方法は1947年頃まで多く行われていましたが、その後は、錘を回して甘撚りをかけながら引き延ばしてつむぐ方式に移行しました。つむぐ機構にフライヤー式とリング式の二方法があります。前者は後者より比較的に毛羽立ちが少なく、かつ、撚りのかかるのが少ないので、真綿紬糸として光沢もあり、ふっくらとした良質の紬糸となります。信州紬はフライヤー方式の手つむぎであるが、産地によってはリング方式を採り入れているところが多い。これは能率的だからです。優良な紬糸の製造は、紬産地のいずれにおいても重要課題です。前述した真綿の手引き紬糸の再現に、信州産地では積極的に取り組んでいます。
染色
信州紬の工程の特色は他産地と異なり、染色工程を各織物工場の中で行っていることです。自家工場で染色することの意義は大きく、自由な色出し、小回りのきく利点、草木染色の併用などによって充分満足できる染色が可能なこと、また染色堅牢度などについても自信をもつことができます。従って、当産地には、専門染色工場はありません。植物染料の中には染色堅牢度が弱く、実用性に乏しいものがあることから、長野県繊維工業試験場は重点課題として、伝承技法の改良、後継者の育成研修などに取り組んでいます。産地の将来の課題は、信州特産の草木染材による100パーセントの草木染製品を創製し、独特の草木染めの色調を選定することです。
絣技法
種糸づくり、印墨付け、手くくりなどの絣技法は、初期は綛糸を段染めにして織り込んで、かすり調に織る程度で、1910年頃、すなわち明治末期から絣技法が移入され、今日まで伝承されています。他産地の多くは、機械化が進んでいる中で、信州では手作業による技法が守り続けられています。外注方式ではなく、自家工場の一貫工程で行われています。種糸は、絣のくくる場所に竹ベラで墨付けするもので、綿糸を筬台の筬羽にかけて図案の通りに下絵を種糸に写し取ります。墨付けされた種糸を長く引っ張ったたて糸やよこ糸に添えて墨付けした箇所を手でくくる。手くくりした糸は綛状にし、他の地糸と一緒に染色します。二色三色または多色の絣を作るには、手くくりの作業と染色を繰り返すことによって得られます。
製織
高機による手織りが行われています。杼は手越で杼口に投げ入れます。踏木を踏んでたて糸を開口させ、よこ糸を入れて筬打ちを行い、踏木を踏んで杼口を閉じて再び筬打ちをします。この動作を繰り返して製織します。手織りの味は、手投げ杼によるものが最高です。織物の地締まりがよく、また肉がつき腰も出る。
信州紬は家内工業が多く、静まりかえる部屋の中に、機の音だけが冴えています。
(長野県織物工業組合理事長 永井千治)
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