2009年8月30日日曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その10

まとめ

 絹フィブロインフィルムのプロテアーゼによる分解性を、プロテアーゼの種類、フィルム含有添加物の有無及び種類を変えて検討し、次のことがわかりました。

(1) トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼEの3種類のプロナーゼのうち、最も高いフィルム分解性を示したのは、プロナーゼEでした。

(2) ベタインを添加剤として含むフィルムの場合には、トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼEのどのプロテアーゼに対しても無添加のフィルムよりも高いフィルム分解性を示しました。

(3) ポリエチレングリコール600を添加剤として含むフィルムの場合には、開始から2時間までの分解性は高いが、それ以降は低下しており、フィルムから溶出したポリエチレングリコール600による抑止効果が推定されます。

2009年8月29日土曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その9

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼによる分解

添加剤の影響
 グリセリンを添加剤として含むフィルムのプロテアーゼEによるフィルム分解性の場合を除き、フィルムの分解性は添加剤を含むフィルムの方が含まないフィルムより分解性が高い傾向を示しました。
 添加剤を含むフィルムの方が添加剤の作用でフィルムの結晶化度が低いため、プロテアーゼがフィルム内部まで浸透しやすく、分解が促進されたと推定されます。

2009年8月28日金曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その8

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼによる分解

添加剤による違い
 ポリエチレングリコール600を添加剤として含む絹フィブロインフィルムの3種類のプロテアーゼによる分解性を図に示しました。
 経過2時間時点での分解性は高い値を示しました。しかし、それ以降の分解性は低く、溶出したポリエチレングリコール600がプロテアーゼによる分解を抑制するためではないかと推定されます。


2009年8月27日木曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その7

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼによる分解

添加剤による違い
 ベタインを添加剤として含む絹フィブロインフィルムの3種類のプロテアーゼによる分解性を図に示しました。
 どのプロテアーゼに対しても無添加の場合より高い分解性を示しました。 プロテアーゼEによる分解ではフィルム残存重量率は経過6時間で40.9%まで低下し、高い分解性を示しました。




2009年8月26日水曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その6

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼによる分解
添加剤による違い
 グリセリンを添加剤として含む絹フィブロインフィルムの3種類のプロテアーゼによる分解性を図に示しました。
 トリプシン、キモトリプシンに関しては無添加の場合よりも経過時間あたりのフィルム重量の減少が大きく、幾分高い分解性を示しました。
 プロテアーゼEに関しては、同等もしくは幾分低い傾向を示しました。


2009年8月25日火曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その5

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼによる分解
酵素による違い
 添加剤を含まない絹フィブロインフィルムの3種類のプロテアーゼによる分解性を、経過時間ごとのフィルム残存重量率の変化として図に示しました。
 フィルム重量残存率は、トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼEの順に低くなり、顕著な差も認められました。






2009年8月24日月曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その4

プロテアーゼによる分解性試験

 プロテアーゼとしては、トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼEの3種類を使用しました。
 各プロテアーゼを0.5mg/ml含む緩衝溶液(20mMTris-HCL,140mMNaCL,pH7.5)20mlを100mlの栓付き三角フラスコに採り、その中へ約1gの絹フィブロインフィルムを加え、37℃で保温しながら振とうしました。2時間、4時間、6時間後に三角フラスコ中の未分解残渣をガラスフィルター(G2)で濾過後、蒸留水で洗浄しました。残渣を乾燥して重量を測定し、フィルムの残存重量を求めました。
 プロテアーゼを含まない緩衝溶液で同様の操作を行い、添加剤の溶出によると推定される重量減少を求め、先に求めたフィルムの残存重量よりその値を引いた値を正味のフィルム残存重量としました。



2009年8月21日金曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その3

 絹フィブロインフィルムの作成

(1) 絹フィブロイン水溶液の調製
 絹繊維を9M臭化リチウム水溶液で溶解。溶解液をセルロースチューブに移し、透析。透析により臭化リチウム(臭素イオンとリチウムイオン)を除き、絹フィブロイン水溶液を調製しました。

(2) 絹フィブロインフィルムの作成
 6%絹フィブロイン水溶液を水平に保たれたアクリル板上に塗布し、自然乾燥で溶媒の水を蒸発させ、絹フィブロインフィルムを得ました。次にこのフィルムをアクリル板よりはがし、50%エチルアルコール中に浸漬後、取り出して乾燥しました。この操作により水溶性であった絹フィブロインフィルムが不溶性に変化しました。

(3) 添加剤を含む絹フィブロインフィルムの作成
 グリセリン、ベタインあるいはポリエチレングリコール600を添加剤として含む絹フィブロインフィルムの場合には、6%絹フィブロイン水溶液中に1%濃度になるように各添加剤を加え、この水溶液を水平に保たれたアクリル板上に塗布し、自然乾燥で溶媒の水を蒸発させ、絹フィブロインフィルムを得ました。このフィルムは既に水に対して不溶性になっているので、エチルアルコールによる不溶化の操作は行いませんでした。 

2009年8月20日木曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その2

 プロテアーゼ分解性に対するフィルム添加剤の影響を調べました。

 分解されにくいとされる絹フィブロインフィルムですが、フィルム製法の違いや添加剤の影響により、分解されやすくなることもあるのではないかと考えたためです。

 絹フィブロインフィルムには、フィルム柔軟化の目的で、グリセリン、ベタイン、ポリエチレングリコールなどが添加されることがあります。

2009年8月19日水曜日

絹フィブロインフィルムのプロテアーゼ分解性  その1

 プロテアーゼによる分解において、絹フィブロインは毛髪ケラチンより分解されにくいことが報告されています。

ヒト毛髪たんぱく質と絹フィブロインから成る複合フィルムの作成と性質」藤井敏弘、荻原大祐、松岡和法、奈倉正宣、繊維学会誌,62(11),245-250(2006)

2009年8月16日日曜日

持続可能社会と絹

 再生産可能な絹繊維という資源。


2009年8月13日木曜日

2009年8月12日水曜日

2009年8月11日火曜日

2009年8月10日月曜日

絹フィブロイン溶解液の脱塩方法(改良) その21

 まとめ

 絹フィブロイン溶解液の脱塩において、拡散透析と電気透析を組み合わせた脱塩を試み、次のことがわかりました。

(1) 拡散+電気透析では、透析外液をオーバーフローさせることなく電気透析により透析外液を循環させながら脱塩するので、使用水量を低減することができました。

(2) 絹繊維(絹フィブロイン)を溶解するためには高濃度の中性塩水溶液を使うため、透析チューブの内と外での濃度差が大きく拡散透析が有利な脱塩初期段階では拡散透析単独で脱塩を行い、濃度差が縮小して効率が低下した時点からは拡散+電気透析で脱塩を行うことで使用水量の低減と徹底脱塩の両立が可能でした。

(3) 絹繊維を硝酸カルシウム水溶液で溶解して調製した絹フィブロイン溶解液を脱塩することで、ハロゲン化合物を生成することなく電気透析を行うことができました。 

2009年8月9日日曜日

絹フィブロイン溶解液の脱塩方法(改良) その20

 脱塩A、脱塩B、脱塩Cの脱塩(拡散+電気透析)時における電導度低下の様子を図に示しました。
 脱塩Cは他の方法に比べ開始時の電導度が低く、また、脱塩機能の低下もあまりみられず順調に電導度が低下しました。
 セルロースチューブの内側と外側での濃度差が大きく拡散透析の効率が高いときには拡散透析単独で脱塩を行い、濃度差が低下し効率が低くなった時点で電気透析と組み合わせた脱塩に切り替える脱塩Cが有効な方法でした。


絹フィブロイン溶解液の脱塩方法(改良) その19

 脱塩C法で絹フィブロイン溶解液50mlを脱塩する際の総使用水量は2250mlでした。脱塩対象の溶解液が2倍の100mlであれば、総使用水量も2倍の4.5Lと推定されます。
 以前の実験で、拡散透析のみで絹フィブロイン溶解液100mlを脱塩した際の総使用水量は35Lでした。従って拡散透析と電気透析を組み合わせることにより、使用水量を1/7まで減少できることがわかりました。

2009年8月6日木曜日

絹フィブロイン溶解液の脱塩方法(改良) その17

 脱塩条件をA、B、Cと変えて脱塩したときの、使用水量、最終電導度などの値をまとめました。

(1) 脱塩方式
  A:拡散+電気透析
  B:拡散+電気透析
  C:拡散透析 → 拡散+電気透析

(2) 絹フィブロイン溶解液量 50ml

(3) 拡散透析時間
  A,B ともに0分
  C    210分 

(4) 拡散+電気透析時間
  A 1900分
  B 1800分
  C 1900分

(5) 入れ替え蒸留水量
  A、B   0ml
  C  1000ml

(6) 追加蒸留水量
  A、B   0ml
  C   250ml 

(7) 総使用水量
  A  2500ml
  B  1000ml
  C  2250ml

(8) 開始時電導度
  A   2.2mS
  B  23.0mS
  C   6.5mS 

(9) 電導度最高値
  A  18.0mS
  B  32.0mS
  C   6.8mS

(10)最終電導度
  A  12.0mS
  B  26.0mS  
  C  0.477mS

2009年8月5日水曜日

絹フィブロイン溶解液の脱塩方法(改良) その16

 脱塩Cの場合の電圧(V)、電流(A)、電導度(mS)の経時変化を図に示しました。
 脱塩Cはセルロースチューブの内と外で濃度差の大きい時には拡散透析だけを行い、濃度差が小さくなってからは拡散+電気透析を行う方法です。
 電気透析を始める際の透析外液の電導度が6.8mSと他の方法に比べ低いので、35時間の処理で0.5mSまで脱塩することができました。更に処理時間をかければ現状の処理能力20ml/hでも徹底脱塩は可能と推定されます。


2009年8月4日火曜日

絹フィブロイン溶解液の脱塩方法(改良) その15

 脱塩Bの場合の電圧(V)、電流(A)、電導度(mS)の経時変化を図に示しました。
 脱塩Aと脱塩Bの違いは、透析外液の量を2500mlから1000mlに減らした点です。
 透析外液の量を減らすことで総使用水量は減らせるものの、塩濃度は高くなるので電導度最高値が32mSとなり、電気透析に掛かる負荷は増加しました。
 現状の処理能力20ml/hで0mSまで徹底脱塩するには180時間、500ml/hの処理能力で8時間と推定されます。


2009年8月2日日曜日

絹フィブロイン溶解液の脱塩方法(改良) その14

 脱塩Aの場合の電圧(V)、電流(A)、電導度(mS)の経時変化を図1に示しました。
 脱塩時間0分から300分まではセルロースチューブの内と外で濃度が平衡に達していないため、電導度は低下だけでなく上昇も認められます。400分以後、電導度の一定の低下が認められ脱塩が進んでいるのがわかります。電気透析装置の循環液量が1分当たり20mlのため、2500mlの外液を脱塩するには長時間を必要とします。また、1600分以降は電導度の低下が止まり幾分上昇しました。
 脱塩停止後、脱塩カートリッジを装置からはずし確認したところ、膜に固形物の析出が認められました。この固形物はカルシウム化合物と推定され、カルシウム化合物の析出により脱塩機能が低下したと推定されました(図2)。
 図1中の400分から1400分の電導度曲線の傾きから推定すると、1時間あたりの電導度の低下は0.18mSでした。従って、電導度最高値18mSを0mSまで脱塩するには100時間以上必要です。
 脱塩時間を短縮するには電気透析装置の処理能力を上げる必要があります。実験で使用した電気透析装置の処理能力は1時間当たり20mlですが、25倍の500ml/hの処理能力の装置を利用すれば5時間への短縮も可能と推定されます。



                図1






            
              図2

2009年8月1日土曜日

絹フィブロイン溶解液の脱塩方法(改良) その13

 拡散透析においては透析外液をオーバーフローさせることで透析チューブ内と外で濃度差が常にある状態を作り、透析チューブ内から外へ塩イオンの拡散を起こさせ、チューブ内塩濃度を低下させていきます。
 拡散+電気透析では透析外液はオーバーフローさせるのではなく電気透析装置へ導入して透析外液中の塩を脱塩して、新しい透析外液として戻します。この結果、拡散+電気透析では透析外液を電気透析で脱塩を行いながら循環させることで使用水量の低減を図ることができました。また、電気透析装置には、絹フィブロインを含む水溶液が直接導入されることはないので、脱塩が進んでも絹フィブロインの凝固で導入パイプが詰まり循環が停止することもありませんでした。